佐々木美術店





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2014年4月17日木曜日

小説シリーズ

1977年の新潮文庫の100冊の中の一冊

「灰皿に二本の吸い殻は罰」

佐々木秀典

???




〜この小説はフィクションです〜


歌舞伎町の角にある風鈴会館を曲がり 大きなビルの地下のシャンティーという名前の店が僕の職場だ
食事 タバコ付き
保険はないが
定期的に金髪に白衣の先生が キャバ嬢みたいなナースを連れての往診はある
全従業員は50〜60人くらいだろうか
24時間サービス営業な為に交代制で僕は朝から夜だ
朝出勤し ロッカーでタキシードに着替える
蝶ネクタイに ウエストにはカマーバンド
黒の革靴でキマりだ

では 現場に行こう
大きな黒人が立っている黒い壁に黒い扉
無言の挨拶を交わし 扉が開く
更にまた黒い扉があり
扉を開ける
全ての扉の上には監視カメラが付いている
今日も大盛況だ
カウンターがあり
手前にブラックジャック
両脇にスロット五台ずつ
右側に重厚感タップリの大理石トイレ
その奥に三台低額バカラテーブル
その奥にも三台中額バカラテーブル
その奥にもさらに高額バカラテーブルニ台
1番右奥に無制限バカラテーブル
左奥にルーレット

僕はギャンブルはやらない
まだ 僕は新人なので「ランナー」っていう パシリみたいな仕事を学んでいる
学校の教室二部屋分くらいの広さだろうか
男性スタッフ ウエストレス お客様でごった返す中 ランナーは基本的に
足を止めてはいけない
男性スタッフは皆 インカムを付けている
勿論インカムの指示は絶対だが
それ以外は お客様の空いたグラス交換
灰皿に二本吸い殻があったら交換 
そこまではウエストレスと同じ仕事内容だ
お客様はアルコール タバコ 食事 冷えピタは勿論なんでもフリーでウエストレスが席まで運んで来る
ランナーは歩く
ひたすら歩き回る
あれ? あのお客様さん昨日僕が帰る前にも居て 次の日の朝までまだ額に冷えピタ貼って居るよ!
素早く歩く 落ちてるゴミ
インカムから聞こえる怪しいお客様をマークしたり
インカムでスタッフは全て繋がっているので
歩きまわってれば 何かしら指示が何処かで出るのだ
そんな僕もウエストレスのチャイナドレスが似合う美しい女性に目が行く余裕が出て来た頃
ランナーから 低額バカラテーブルの担当を任せられるようになる
テーブルの担当は 歩きまわらない
テーブルでのお客様を監視してるのだ
低額バカラは 韓国人中国人のヒステリック女性のお客様が多い
低額なのに 更に二人で一つのセットをお客様同士でする ノリをチェックする
ノリを発見して注意すると必ずお客様の女性はヒステリックになり
「ニホンゴワカラナイ!」
に なり
マネージャーが話をまとめるのだ
マネージャーとは
いちよう現場スタッフの管理人だ
他にはコックさん数人
ウエイター2人
小窓のキャッシャーさん1人(今だ顔がわからない)
店長も居るが 毎日は居ない
そのまた上のオーナーは週一回三人くらいのダークスーツの男を引き連れチョロっと顔を出すだけ
この関係性は いったいだれが責任者で
だれがなんだかわからない
その上にもまだ誰か居るのだろう

気前のいいお客様がガッツリ当たった場合は
そのテーブルから御祝儀チップのコインが飛ぶ
スタッフ一同声を合わせ
「ありがとうございます!」
キャッシャーで現金にチェンジした後に 札束を左手に持ち 右手でベロベロっと巡った後に
ドーンっと チップを出すお客様もいる
チップに ひゃひゃ百万⁈
僕はいつものように唇の脇にメレンゲのような細かい泡をカニみたいに噴いてキョドっていた
スタッフ一同大きな声で
「ありがとうございます!!」

さて低額バカラテーブルからは中額テーブルにステップアップして行くのだが
僕は ビンゴゲーム司会者メインの雑用係になっていた
毎日一回やるビンゴの予約番号や名前合わせの打ち合わせの仕事だ
まず 名前と顔を覚えないといけない
司会のノートには お客様の特徴をその都度書く
ハゲ ホスト デブババー モモコさん 茶色スーツ キレイ女 など
常連客でないお客様の特徴をメモる
ビンゴゲームはお客様も楽しみにしているコインが当たるわかりやすいビンゴゲームだが
無制限バカラテーブルのお客様は全く参加する意志はない
コイン百枚入るドル箱を積み重ね賭けてるテーブルに 冷えピタと栄養ドリンクは必要だが
ビンゴは必要ないのだろう
僕はマイクを持ち ルーレットビンゴを予約番号順に進行して行く
当たった番号は僕のノートにメモ書きしてある ハゲ デブをヒントにマイクで名前を呼び コインを取りに来てもらう
大変シンプルだが盛り上がるイベントなのだ
イベントのテンションを高くするのも 低くするのも 司会者次第だ
僕は そりゃもうマックスなテンションでイベントを盛り上げた
イベントが終わるとウエストレス達は皆一斉に 床用の柄の長いコロコロを会場中コロコロコロコロやり始める
チャイナドレスの女性達が10人くらいで床をコロコロしている姿はとても美しく いつもうっとりしてしまう
さてビンゴが終わったお客様は各テーブルに戻り プレイヤーかバンカーか どちらが勝つかその勝負に集中する
大抵のお客様は 専用シートにプレイヤーとバンカーの勝ち負けのグラフを書く
そのグラフで次の勝負に挑むのだ
低額バカラの韓国人中国人ヒステリック女性はグラフなどつけない
中額バカラでは いろんな人種が集まる
早朝来店する仕事帰りのほろ酔いホスト達
普通のおじさん
クラブのママ風女性
皆さん勝負を楽しんでいるような感じが普通にあるテーブルだ
一方 無制限バカラテーブルは空気が違う
行き交うお客様もウエストレスもマジなのだ
笑いなどそのテーブルには起きない
クールに勝負が進行されて行く
プレイヤーバンカープレイヤーバンカー 

定期的にやって来る金髪に白衣の先生とキャバ嬢風看護婦
昼間にこんな金髪先生のいる病院に誰が行くだろうか?
スタッフは皆 お店の暇な時間帯をねらいお店の別室で交代で 予防注射というポンプをシュートする
本当に予防注射なのだろうか?
疑わしいが疑う暇はない
風邪気味の者には 自己申告でビタミンもポンプに加え入れてもらい シュートしてもらう
妙に色気あるキャバ嬢風看護婦は無表情で金髪先生にポンプを渡し 止血シールを貼る

僕は無制限バカラテーブルの担当と トータルリーダーにはなれてないが それなりに昇格していった
デビューの早かったビンゴ司会者は楽しんでいる
ある日ワンデー 僕は体調を崩した
冗談ではなく世田谷区 世田谷線 世田谷駅に住んでいた僕は
具合悪くしていた
そんな朝イメージした 
チンチン電車の世田谷線で世田谷→下高井→新宿→歌舞伎町内を徒歩10分→12時間労働→夜の色付く歌舞伎町内を徒歩10分→新宿→下高井戸→世田谷
無理 今日は無理
お店に電話し お休みをいただいた
僕はマンションで眠っていた
夕方電話が鳴った
シャンティー上層部の方からの電話だった
「店にガサ入れだ しばらく店やスタッフに連絡を取るな!」
次の日の東スポの表紙を飾ったのは
『歌舞伎町で一番デカい闇カジノ摘発!』
逮捕されたオーナー代表はマネージャーの名前だった
マネージャーは捕まるリスクを承知で本当のオーナーと店長との関係を 捕まり役を引き換えに仕事をするのだろう
守るモノがある人間には店長やマネージャーにはなれない
後の話で 裏でガサ入れが入る日にちを知ってた店長は急な退社をしたし
お客様サイドにもしってる人もいたらしい

僕は違法だとは知っていたが 一番デカいとは知らなかった
バカラに興味はなかった
闇というスリルには興奮や興味はあった
昼前に 店に護送車四台横ずけ
何百人の警察官が一気に入って来たらしい
その凄まじい現場の話は後でスタッフに電話をして聞いた
数日後 また上層部から電話があった
「大変だったな 大丈夫か  途中の給料とお詫び金を払うからヒルトンの○○○○号室に来てくれ」
「はい 僕は休日でしたので大丈夫でした」
「そうか ラッキーだったな」
僕はヒルトンと聞き ジーパンはやめようと思った
新宿駅から送迎バスでなく徒歩でもなく タクシーをわざわざ使いヒルトンまで滑った
ロビーにはシャンティースタッフがウロウロ話をしている
みっともない
僕は 会釈し 即エレベーターに乗る
あれ? はにゃ?
いつも裾の脇にスリットが入ったチャイナドレスを着こなす美しいあのお気に入りの彼女が居る!
私服で居る! 眩しい彼女が…
眩しい彼女が カウンターのウエイターのすかした野郎と一緒に…
ただの友人でない雰囲気を出して…

僕は少し凹みながら
部屋をノックして入る
ホテルというよりオフィスの佇まいで
ベッドのある部屋など見えないくらいで広いエグゼクティブスイートだろう
金の屏風存在感が強い
僕は 面接のように席に座る
何人かいる上層部の方で 面白い方が居て 僕はその方が好きだった
お店の別室でバカラのルールを教えてもらったのもこの方だった
ガサ入れされた店のお給料とお詫び金
闇カジノとは相当しっかりとした組織だと感じた
チョットした居酒屋やコンビニなどよりしっかりとしてそうだ
そこで僕は最後に上層部の方に質問された
「また 近々店はオープンする その時はお前はどうする?」
僕は即答だった
「是非ご連絡下さい お待ちしております」

帰りのエレベーターで眩しい彼女のことを思い出しながら1階に降りる
まだ ロビーにはシャンティースタッフがウロウロ話をしている

僕は帰り現実的になっていて行きのわざわざのタクシーではなく
送迎バスに乗り新宿駅西口に運ばれたのだった
帰りに1人プロントでビールを飲みシャンティーの日々を思い出していた
カードを配る声が頭を回る
「プレイヤーバンカープレイヤーバンカー」





〜参考・あとがき〜



カジノ シャンティー摘発

日付       1月15日
店名 シャンティー
場所 東京都新宿区歌舞伎町二
警察 警視庁保安課・新宿署など
容疑        賭博開張図利容疑 常習とばくなど 
従業員 容疑者(27)   38  人
52  人
逮捕合計人数 90 人
押収品  かけ金など約5900万円  バカラ台10台ブラックジャック台など
備考 調べによると、容疑者ら店側38人は15日午前八時四十分ごろ、同店内でトランプとチップを使って、客に金をかけさせ、バカラとばくをさせていた

同店は昨年三月ごろに開店し、24時間営業していた。

1日のかけ金は30億円にものぼり、店側の利益はこの日半日だけで1800万円あったことから、同課では、これまでに約130億円の利益があったとみている。客の七割は中国、韓国、タイ人などの外国人だった

1999.4.12

東京都新宿区歌舞伎町のカジノ店「シャンティー」のバカラとばく事件で、警視庁保安課と新宿署などは十二日までに、経営者のラオス人、容疑者(41)をとばく場開張等図利の疑いで逮捕した。

調べによると、容疑者は今年一月十五日、同店内でトランプとチップを使って、客に金をかけさせ、バカラとばくをさせた疑い。

容疑者は同店摘発後、逃走し、ソウル、香港、台北などを転々としていたが、今月九日に台北から羽田空港に着いたところを逮捕された。 
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・次回歌舞伎町連載小説予定・

「大久保病院・職安通り付近の韓国人との一日生活」






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